より助けを求めている中小企業の経営者を助けたい~くじらキャピタル~
八田:今、くじらとしてやろうと思っていることと、IMJの経験で、一番今に繋がっていることは何ですか?
竹内:そうですね、今まで述べてきたように、
- 経営者によって会社は変わる、だから経営者を助けたい。
- デジタルはすごい。
この二つです。
大きな気付きがあったイベントもありました。あるグローバルなバイアウトファンドが出資している国内のスナックメーカーがあって、その投資ファンドから派遣された役員に呼ばれて、デジタル施策を提案せよ、と言われたことがありました。大手広告会社や私たちが呼ばれて、競合プレゼンをしました。
先方の担当はたぶん30半ばくらいで、投資銀行の年次でいうと僕より少し下くらいの感じなんですが、何もデジタルのことが分かっていない。本当に。SEOって何ですかくらいの話なんです。
八田:検索エンジンがこれだけ重要な時代に?
竹内:そうなんです。2014年とか15年とかの話です。
バイアウトファンドは買った会社を再建しないとダメなわけですが、その際に一番大事だと私が思っているデジタルについては何も知らない。これはチャンスだって思ったのをすごく覚えています。
八田:あーーー今の発想は他の人にあんまり無いものかもしれませんね。
竹内:無いと思いますね。気づきとして良かったですね。あとはIMJも大きくなって、小さい会社は手伝えなかったということです。人も足りないし、大きい売上で、高単価のものにシフトしていくという中で、結構手伝えない会社が増えてきて。その矛盾も感じました。その小さい会社がより助けを求めていて、僕らに感謝してくれるのに。こっちの人達を助けたいなーっていうのはありました。
株主になることが一番フェアな完全成功報酬。失敗したらゼロ円。
竹内:中小が、より助けが必要なのですが、それを助けようとすると、もう一個難しい問題に当たりました。それはフィーのもらい方です。
僕らの基準でフィーを請求するとお客さんがひっくり返ってしまいます。例えば「1人月250万円でいいです」と言うと「(客)250?年間ですか?」「いえ、一人1ヶ月動いて250万円です」と言うと「(客)うちの年間の利益が200位しかないから、それだけで赤字になります。」みたいな話になってしまうのです。では20万でいいかというと、それだとさすがにやる意味がありません。
それなら成功報酬でやりましょう、となるんですが、計算方法が難しい。何が一番完全成果報酬に近いんだろうと思った時に、僕は株主になることだなと思ったんです。それであれば、もう間に何が起きようと、僕らは業績自体、会社のボトムラインが良くならない限りは、永久に報われない。中間指標がどうであれ、会社の価値が高くならない限りは、永久に報われずに、一円ももらえないということは完全に利害が一致しているとですよね。ランニングのフィーは一円もいらない代わりに、会社の価値が上がった時に何億でも、何十億でも報酬を頂く。
八田:お客さんに恨まれないどころか、感謝されますね。
竹内:失敗したらゼロ円どころか全部持ち出しでマイナス、大失敗でしたね、というポジションが一番フェアじゃないかな、と思います。成功させる動機が強烈に働くし、上手くいった時はめちゃくちゃ報われるという形です。
八田:マーケティングを完全レベニューシェアで実現するにはどうしたらいいか、と考えると、やっぱり金融を混ぜるしかない、いやむしろ、金融、お金の重要性が先にあって、あとどうやるかは、マーケティングもあるし、人事もあれば、総務もある、と思っています。
竹内:そうですね、最初は金融を混ぜ込むという発想でした。やはり、成果報酬というものは金融的な工夫が必要になるんです。そもそも今どういう状況で僕らのインパクトはどれぐらい出せて、そのうちどれくらいもらうのがフェアなんだろう、という取り決め、金の配分がまさに金融です。金を融通すると書いて金融なので、やはり成果報酬というと、価値の差配をどうするかっていうことに行き着くわけです。コンサルティング会社や広告会社、制作会社においても、できる人・できる会社ほど成功報酬でフィーをもらうにはどうしたらいいか考えていると思いますが、金融の知識がないと難しいんじゃないかと思います。
八田:わかります。実現しないのは、もうおっしゃる通りで、どこかで上限を決められるか、赤字が続くのが耐えられないかのどっちかですよね。先行投資で、営業マンが一人で頑張ってるぐらいだったら別に良いんでしょうけど、社内の他部署のリソース使い始めたら、おい、おまえいつまでやっているんだって、絶対なります。アップサイドが限定的なことは、感覚で分かってるわけですよね。
竹内:契約なので詳細を詰めればできるはずなんですが、現実はとても難しい。
なぜ中小企業?地方には底力のある企業が沢山あるから。
八田:くじらキャピタルの話に戻りますが、やはりターゲットは中小企業の社長支援なのですか?エリアは関係なく。
竹内:そうですね。創業者や創業家の、ハッピーリタイアを支援し、会社については次の成長を実現する。特にデジタルを使って。
八田さんには釈迦に説法ですが、中小企業は、数がめちゃくちゃ多いのです。日本の99.7%が中小企業。三百数十万社あるうち、上場しているのは3,700社しかない。残りの三百数十万っていうのは中小企業です。そこに課題がたくさんあるし、数が圧倒的に多いので、僕らみたいな投資会社は、それなりの数を見ていかないと発掘ができない、発掘したとしても分散が効かないというのがあるので、どうしても母数が多い必要がある。で、大企業は相対的に困っていないので中小企業に行く、そこが一番いいかなと思います。
[1] その時色々調べましたが、日本国全体のGDPは名目で550兆円あり、そのうち一都三県のGDPはどれくらいかというと、丁度1/3強くらいなんです。人口は3割弱ぐらいなので、GDP の方が少し多いのですが、東京、千葉、埼玉、神奈川で、GDPも人口も3割くらい。逆に言うと一都三県だけ見ていても、国全体の7割はカバーできていないということです。
もう一つ、各都道府県の一人当たりの県民所得のランキングを総務省が発表しています。圧倒的1位は東京で、県民一人当たりの所得が534万円。これは分かりますよね。2位は愛知。これも分かります。でも、3位ってわかりますか?大阪かなー神奈川かなーとか思いますよね。違うんですよね、栃木なんですよ。
八田:栃木ですか?
竹内:そうですね、正確な情報を言うと、3位が栃木、4位静岡、5位富山。ここまでがトップ5なんです。8位福井、9位三重、10位茨城、で、大阪は13位。
都道府県別1人当り県民所得(万円)
- 東京 534
- 愛知 363
- 栃木 331
- 静岡 330
- 富山 329
- 滋賀 318
- 神奈川 318
- 福井 315
- 三重 315
- 茨城 311
- 群馬 309
- 広島 306
- 大阪 305
- 山口 304
出典:内閣府経済社会研究所「平成28年度県民経済計算 都道府県別1人当り県民所得」
八田:不思議なランキングですよね。
竹内:ぜんぜん分からないでしょ。でも、この静岡、富山、滋賀、福井、三重というのは、過去数十年間見ても、だいたいトップ5前後にいるんです。意外ですよね。
これらの県はそれなりに強い地場産業を持っていて、全国的知名度はないければ本当は凄い会社が多く存在しています。要するに、底力がある県が日本には意外に多いよねっていうことなんです。ここにフォーカスをしないのはビジネスの判断としてももったいないと思います。
八田:なるほど。でもそうですよね。一人当たりの生産量もそうですし、さっきの一都三県のGDPシェアも、イメージより低いですよね。
竹内:半分位行くかな、と思っても、3割ですからね。
八田: これは地方の人の方が分かっていない事です。日本は東京が全てなんでしょ、と、どこか自分たちの地域のことを卑屈に思っているんですよね。もっと自信を持ってください!と言うんですが、、、
竹内:商売として考えても、地方、中小ってだいぶ過小評価されている市場なので、ここは勝てるんじゃない、というのが計算としてあるのです。
八田:ちなみに私もよく言われるんですが、皆に不思議がられませんか?なぜ中小企業なの?手間がかかって大変でしょ、と?
竹内:必ず同じことを言われます。効率は悪いですよ。ファンドは規模の経済が働きやすい一方、バリューアップの工数は大きく変わらないからです。売上高100億円の企業を立て直すのも、1億の企業を立て直すのも工数が100倍になる訳ではない。だったら100億のほうが、効率いいよねと。効率だけで言うとその通りなのですが、中小企業投資をやっているバイアウトファンドが日本には極めて少ないので競争がほぼない上、中小企業には課題が多いので、要は濡れ雑巾なわけです。どんな施策をしてもアップサイドしかない。さらに、バリューアップ手法を定型化して横展開していければ、手間はかかるようで、実はかからないかもしれない、と密かに思っています。
大企業や先進的な企業は結構色々なことをやり尽くしているので、これ以上何ができるのか?というケースもありますが、中小企業の場合、まず FAX やめましょう、とか、メールも社内に1個とかじゃなくて、全員メアドを持ったほうがいいんじゃないですか。とか、そのレベルでも大きな成果につながります。
経理などのバックオフィス業務でも、帳簿管理がしんどいんだよ、と言われたら、freeeやマネーフォワードって知ってますか?などですね。私たちのようにデジタルの中にいると当たり前ですが、そんな当たり前の施策でも効果が出そうだな、という見通しもあります。
これからも地方・中小企業を元気にできることを証明していきたい。
八田:何か今後やろうと思っていることは何ですか。2020年直近これをやろうと決めているという話はありますか?
竹内: 投資のスピードアップをしていき、事例をたくさん作りたいです。僕らが世に問いたいと思っていることが本当にできるんだという証明事例をもっと増やして行きたいと思ってます。
八田:反響は具体的にどうでしょうか?
竹内:案件は、数だけはすごくあります。常時、40-50件が検討中に上がっていて、ずっと見ています。いい会社だ!と思っても高くて条件に合わなかったりして、お断りしているのがほとんどです。やっぱり投資を生業にしている私たちは、高く買うことは最大のタブーなので、そこが辛抱のしどころです。ただ、良い会社はたくさんあります。
実際、その社長が高齢になったりご病気をされて、一刻も早く事業の承継を考えたい、という例は結構あるんです。世の中、中小企業全体の1/3ぐらいが後継者がいないと言われているので、一つでも多くやらなければいけないと思っています。
八田:そういう案件をよりたくさん、ということですよね。
竹内:はい。
八田:本当にその通りだと思います。純粋に感謝されて、かつ、このマーケットの巨大さにあまり気付いてない。あとやり方だけうまく取り組めれば、ですね。
竹内:お金の頂き方の工夫だけは必要ですね。八田さんも出張で地方に行かれていると思いますけど、僕も週に2、3回出張してて、あちこち周りますけど、ポテンシャルはすごいなぁという会社はありますよね。見立ては正しかったんだな、と実感しています。
八田:本当にこんなに面白い会社がいっぱいあるのか?と思うくらいたくさんありますよね。東京の会社ばかりを追い求めるのはもったいないんじゃないかなって純粋に思います。これ手伝ったら、こんなに良くなった!というのを証明したいですよね。。
竹内:本当にそうなって欲しいですね。私たちもデジタル×資本で、地方の会社を元気にする、幸せな会社を増やすっていうことに取り組んでいますが、それで独占しようと思っていません。なぜなら独占できるほど小さい市場じゃないんです。三百数十万ある中で、僕らが10社100社やったって、誤差未満ですよね。だから私たちみたいな会社が100社1,000社出てこないと、本質的な解決にならない。ぜひいろんな人に取り組んで欲しいなと思います。これはキレイ事じゃなくて。私たちは、これまで投資候補先を300数社断っていますけど、手伝えないのがほとんどです。その人からすると、こいつら何もしてない、聞くだけじゃん、って思われていると思います。誰か別のやり方でできる人がいれば、紹介したい。それくらい課題の規模が大きいんです。だから、独占するなんて到底無理です。
八田:足りなすぎますよね。とりあえず、竹内さんが断った数百社、いや数千社は、ロケットメイカーズに紹介お願いします(笑)。
竹内:何社かありますよ。本当に。僕らは金融的な部分でお手伝いできるし、八田さんのところはマーケティング分野に強い。何かご一緒できたらいいですよね。
八田:はい、ありがとうございます。私たちはマーケティング戦略を重視した事業投資型のクラウドファンディングによってローカル・ニッチ・中小企業の新規事業支援を目指しています。あくまでも私たちはプロジェクトのファイナンスです。本体の株式には入らないので、その辺がポイントかなという気がします。条件さえ合えば一緒にできると思います。
竹内:そうなったら、本当に嬉しいですよ。僕らは投資した会社の資本構成の最適化が飯のタネでもあるので、ロケットメイカーズさんと一緒にコストの異なる資金を組み合わせられるのであれば、間違いなくご一緒できると思います。
八田:ぜひ中小企業の成長支援でご一緒しましょう!本日は長時間のインタビューありがとうございました。
竹内:こちらこそありがとうございました!