日本初の寄付型クラウドファンディング「ジャストギビングジャパン」の立ち上げ、議員事務所、大使館、国際機関、NPOなどへのインターンを3万人以上送り出している「ドットジェイピー」理事長、信頼できるN P O団体の評価基準「チャリティナビ」の作成など、数々の偉業を成し遂げてきたパイオニア佐藤大吾さん。
前編では数々の「日本初」を世に出してきた大吾さんに日本初の寄付型クラウドファンディングを立ち上げるまでを振り返っていただきます。
■なぜ議員インターン事業をNPO化したのか?
八田:ドットジェイピーの起業が最初だったのですか?
佐藤:いえ、学生期間中に最初に起業したものは、民間企業向けインターンシップでした。
ただ、私は法学部に所属していたので、周囲に大阪市役所や大阪府庁で働きたいと思う、公務員志望の学生が多かったのです。行政にインターン受け入れの打診をしましたが、門戸が閉ざされていたので、「議員事務所はどうだろうか?」と考えました。議員であれば、仕事上、行政と関わる機会もあるだろう。それで議員インターンを開始しました。
ビジネスモデルの話をしますと、インターン制度導入企業からは人事採用予算からお支払いいただいていました。しかし、議員事務所では採用ニーズはほぼありませんし、即戦力どころかお手間をかけさせてしまうので費用をいただくことにためらいがありました。
当時は僕自身も学生だったので、学生たちからお金をいただくことにもためらいがあり、結局議員と学生のどちらからもお金は頂けませんでした。そもそも、議員事務所でのインターンは1回限りのイベントのつもりだったので、収益にならなくてもメディアに採り上げてもらえたら十分と考えていました。
ところが、当時クリントン大統領のインターン生との不祥事があり、議員インターンを行っていた私達に対しても、各メディアから取材殺到で、1回きりのイベントで終わらせるのがもったいないと思うほど議員インターンの認知が広がりました。
もう1つのタイミングとして、ちょうど1998年に、恩師の山内直人先生から「もうすぐ日本にもNPO法人というものが誕生するよ」という話をお聞かせいただいたことです。
「寄付や会費を集めて、社会課題の解決のために活動するのがNPO。そのNPO法人を日本でも作れるようになる。課題があるところに、NPOが生まれる。大義を掲げ、賛同してくれる人から寄付や会費を集めて事業運営を行うのがNPOの基本的なビジネスモデルだ」
と教えていただきました。そこから、議員事務所でのインターン事業をNPO法人化することを考え始めました。
インターンに参加する前の学生たちへ「選挙へ行きますか?」というアンケートを取ると、選挙に行くと答える学生が3割程でしたが、インターン参加後に同じ質問をすると8割以上が選挙に行くというデータがありました。そこで「若年投票率の向上」を大義とし、その考えに賛同した議員から会費をもらうことを思いつきました。議員からは、春・夏インターン毎に会費5万円。あくまでも会費なので、頂くお金は受け入れるインターンの人数に比例せず一律です。
同時に「しんどいから」といってインターン期間中に途中離脱してしまうインターン生が多かったので、学生からも参加費として1万円程度を頂くことにしたら、離脱者が劇的に減りました。
八田:すごい!インターンに参加するとそんなに投票への意識が変わるんですね。つまり、議員側からみると学生はリソースの対象ではなく、教育ということですね。でもなぜ会社形態として株式会社ではなく、NPOにしたのですか?
佐藤:ぼくは「NPOを立ち上げたいのですが」と相談に来てくれる方には、「なぜ株式会社でやらないのですか?」と質問します。その問いに対する答えをしっかり持っておいたほうがいいですね。株式会社ではなく、NPO法人のほうが良いケースはいくつかありますが、大きなひとつが「受益者がコストを全額負担できない事業」が当てはまります。
例えば、ホームレスの方におにぎりを差し上げる事業。株式会社であれば、原則として受益者負担なので、おにぎりを食べる人がおにぎり代として運営コストを負担します。ただ、ホームレスの方だとそういうわけには行かないので、別の誰かが運営にかかるコストを負担する。それが寄付です。
議員事務所でのインターンは、創業時に「受益者は学生であり、学生のためにインターンプログラムを提供する」ということを決めました。逆に言うと「議員のためのプログラムではないということを決めた」とも言えます。ここが重要なポイントです。
株式会社の場合、インターン事業のコストのすべてを受益者である学生に負担してもらうことになりますが、それは簡単ではありません。そこで「若年投票率の向上」という大義に賛同してくださる議員を募り、会費をいただくことで、インターン事業を運営することにしました。
つまり、議員は受益者ではなく、協力者だと位置づけています。学生のために、政治の現場を提供してくれる生きた教材であり、同時に会費を支払うことで運営コストを負担してくださるとてもありがたい協力者です。
これが議員事務所でのインターンシップ事業の運営形態を株式会社ではなく、NPO法人にした理由です。
八田:なるほど!この話はとてもわかりやすい。
■チャリティプラットフォーム開始とNPO評価基準の構築
八田:2010年に初めてお会いした頃、議員インターンのドットジェイピーとは別に、NPO評価の話を良くされていた記憶があります。
佐藤:私は1998年からNPO経営をやっていましたので、徐々にNPO経営者仲間が増えていきました。あるとき「資金が無くて潰れそう」というNPO経営者からの相談を受け、「すばらしい活動をしているのに、潰れてしまうのは勿体ない」と思いました。
私は株式会社を設立し、その後にNPO法人を設立したので、当時は株式会社の経営者仲間のほうが多かったため、株式会社の社長を幾人か紹介して、上手く寄付を得ることになりました。
その時、寄付を得たNPO経営者だけではなく、寄付をした社長からも感謝されたことがとても印象的でした。
「CSRが重要視される時代に、寄付・支援先として知っていたのは、赤い羽根の共同募金、赤十字、ユニセフくらい。こんな良い団体があるなんて知らなかった。本当にありがとう」と言われました。
寄付を集めたいNPO団体と、CSR視点で寄付をしたい企業の両者が存在する。
ここにマッチングニーズがあると実感し、ぼんやりと思い描いていました。2004年位のことです。
八田:どのN P Oがどんな活動をしているかはなかなか外からはわかりにくいですよね。
佐藤: 2004年頃、村上ファンド代表の村上世彰さんから呼ばれ、「NPOについて教えてほしい。この国を良くするのに、次はNPOだと思うが、NPOの状況はどうなのか?」という質問を受けました。
同じ大阪出身ということで当時通産省におられた村上さんには、ぼくが学生の頃からお世話になっていたのですが、その時からコーポレートガバナンスの重要性を熱く語っていました。「企業経営について、株主の立場からしっかりチェックすることが大切だ。議員事務所でのインターンでいえば、学生だけど有権者という立場から、議員としての活動を見ることになるので、議員たちも立候補した頃の初心を忘れないでいられるはず。これも一種のコーポレートガバナンスだから、非常に素晴らしい。頑張れ。」と。
さらには、村上さんご自身の寄付体験話から多くの気づきをもらいました。
「これまでNPO団体に寄付をしたことがあるが、ただの一度も二回連続で寄付をしたいと思ったことはない。寄付した後はなしのつぶて。1年くらいたったころに『今年も寄付をしてください』という連絡がくるだけで、寄付者に対する途中の報告が全くなっていない。ルールも無い。寄付してもまったくおもしろくないから連続で寄付しようという気にならない。『寄付させてくれてありがとう』といえるほどの感動体験を提供することができたら、NPOへの寄付がもっと増えるのではないか。海外はどうなっているのか?」
調べてみると、アメリカやイギリスには寄付者と寄付先の団体をマッチングするサービスが多数存在していましたが、日本はありませんでした。
2006年に村上さんからは改めて「NPO版のベンチャーキャピタルを真剣にやろう」と誘いがありました。少し迷いましたが、活動趣旨は絶対に正しいし、ニーズは大きいと思い、一緒にNPO法人チャリティ・プラットフォームを設立しました。
八田:なるほど。元々はNPOベンチャーキャピタルという発想だったんですね。
佐藤:はい。同時に寄付のマッチングプラットフォームをやろうということになり、そのためには私たちが自身をもって紹介できるNPOであることを証明する基準、証券市場でいえば上場基準にあたるようなものが必要だという議論になりました。
そこでまず国内のNPOが、寄付者に対してどのような対応を行なっているかを調べることからはじめました。
NPOを対象にした説明会を何度も開催し、2000団体ほど参加していただきました。そのうち、十分な活動実績を有するNPOのうち主要200団体に対して、実際に会員になったり、寄付をしてみたところ、寄付者や会員に対して、どのような頻度で、どのような報告を、どんな方法でコミュニケーションしているのか、正確に把握することができました。
入会したあと何も連絡がない団体や、頻繁に連絡がある団体もあり、定期的に送られてくる機関誌などのクオリティも分かるので、それら全てをスコアリングしていきました。
企業経営者が株主と行うコミュニケーションIR(Investor Relations)に対し、NPO経営者が寄付者・会員と行うコミュニケーションをDR(Donor Relations)と呼んで、DR力の評価基準を作り、それらをクリアした団体を掲載し、寄付を呼びかけるプラットフォーム「チャリティナビ」をスタートさせました。
当時の評価基準のうち、チャリティ・プラットフォームが企業や経営者に胸を張って紹介できるかどうかの基準の一例です。
- 非営利であることが明記された定款の有無
- 財務情報をインターネットに公開しているかどうか
- 法人と代表個人の銀行口座が分かれているかどうか
- 1人以上の専従職員がいるかどうか
今では信じられないレベルのように思われるかもしれませんが、当時はこの程度の基準を満たす団体も多くはありませんでした。
チャリティプラットフォーム http://www.charity-platform.com/
八田:ここでチャリティプラットフォームが出てくるんですね。2010年当時、赤十字が財務情報を公開していない、ということを大吾さんから聞いて衝撃を受けたことを覚えています。そのくらいN P Oが情報公開するのは当たり前じゃなかった、と。
佐藤:そうですね。東日本大震災の際に、公開していないことが話題になり、今は公開するようになりました。
安心できるNPOの基準つくりと、それらをクリアしたNPOリストができましたので、世界で一番大きい寄付プラットフォーム「ジャストギビング」に交渉しに行き、業務提携が成立し、2010年に「ジャストギビングジャパン」を開始しました。
ジャストギビングジャパンに専念することになり、そこで当時オプトの八田さんともお会いしましたね。
八田:すぐ後にこの仕組みの凄さに気づくんですが、恥ずかしながら、お会いした当時はお聞きする話を理解するだけで精一杯でした。
■日本初の寄付型クラウドファンディング「ジャストギビングジャパン」。寄付のクレジット決済を最初に実現
八田:今でこそ、寄付や購入のクラウドファンディングは沢山ありますが、大吾さんが2010年にジャストギビングを立ち上げてなければ、その後のクラウドファンディングは出てこなかったのではないかと思っています。
佐藤: 過分なご評価、ありがとうございます(笑)私がジャストギビングジャパンの仲間たちと一緒に取り組んだことで誇りに思っていることの一つが、NPOがインターネット上で、物販やサービスの購入ではなく、寄付としてクレジットカードでの決済を受けられるようにしたということです。クレジットカード会社と約1年にわたって交渉を続けました。
当時のクレジットカード会社のスタンスは、Amazonや楽天のような購入であれば良いが、寄付はだめだとの見解で、交渉が難航しました。せっかくイギリスからジャストギビングというネットサービスを持ってこれそうなのに、寄付のネット決済ができないとなってはまったく意味がないと思い、必死になって交渉を続けました。
もう1つ、加盟店審査がハードルになりました。ジャストギビング上に掲載するNPOのひとつひとつをすべてクレジットカード会社が個別審査したいと言われましたが、最終的にはジャストギビングに掲載した団体は直ちにクレジットカードで寄付を受けられるようになりました。
八田:仕組みを作っていただき、私も恩恵を受けています。上記のような交渉があったからこそ、今はフォーマットがあり、それに基づいて交渉ができるので、とても楽です。
佐藤:ルールを整え、フォーマットを作ることに非常に時間がかかりました。本来やりたいことになかなか到達できず、そこはもどかしかったです。相撲を取りたいのに、ずっと土俵を作っていた感じです。(笑)
■そして、2011年東日本大震災が起きた。想定以上の寄付と倒産危機
八田:2011年に震災が起きましたが、寄付型クラウドファンディングの仕組みは凄いと、世の中の皆が気づいたのではないかと思います。ものすごい勢いで寄付が集まる一方、「ジャストギビングが15%も手数料をとるとは何事だ」とかなり叩かれていましたよね。
佐藤:相当叩かれました。ただし、様々な励ましや応援も頂きました。
「実際に被災地に寄付を届けようとすれば現地に行くだけで交通費もかかるし、適した団体を調べる手間もかかる。それを全てジャストギビングが代行してくれているのだから手数料がかかるのは当然だ」という趣旨ですね。これはマスメディアも巻き込んだ大論争になりました。
でも私たちは「手数料を取りません」というスタンスに途中から変えました。
八田:よく覚えています。とてつもない赤字が出るかもしれないと、とてもハラハラしていました。
佐藤:手数料を取らない、としたことは後悔していないのですが、手数料15%の内、カード会社に支払う実費約5%程度まで負担することにしたことは反省しています。
1億円程度の寄付が集まった場合の実費500万円分くらいはチャリティ・プラットフォームで負担しようと思っていましたが、想定以上に寄付が集まってしまい、1ヶ月で寄付6億円が集まり、クレジットカード手数料約3,000万円の負担が必要になり、潰れかかりました。
八田:どうやって切り抜けたのですが?
佐藤:手元のお金で、なんとか凌ぎました。5月にギブアップ宣言をして、それ以降は手数料をもらうことにしました。
八田:シンプルに耐えたのですね。
佐藤:はい、実費の5%だけでももらっておけばよかったなぁ、と今でも思います(笑)
後編 〜困っている個人だけでは変えられない、おかしな社会の仕組みを変えたい〜 に続く
NPO法人ドットジェイピー 理事長 佐藤大吾
73年大阪生まれ。大阪大学法学部在学中に起業、その後中退。98年、若年投票率の向上を目的にNPO法人ドットジェイピーを設立。議員事務所、大使館、NPOなどでのインターンシッププログラムを運営。これまでに3万人の学生が参加、うち約100人以上が議員として活躍。10年、英国発世界最大の寄付サイト「JustGiving」の日本サービス「JustGiving Japan」を開始(19年、トラストバンクへ事業譲渡)。国内最大の寄付サイトへ成長させるなど、日本における寄付文化創造にも尽力。