社会のため、顧客のため、リスクを背負って新しい挑戦を繰り広げる挑戦者のお話を伺う「Challengers Road」
第1回は、伝統業界である剣道の世界のDXに挑み続けている剣道ベンチャーのBUSHIZOの取締役/共同創業者の工藤さんにお話を伺いました。まさに、今バズワードとして出てくるDXを4年前の創業時から取り組まれています。この4年間のBUSHIZOのストーリーをお聞きしました。
・2名の若い剣士が立ち上げた創業4年目の剣道ベンチャーのBUSHIZOは2020年1月 に動画サービスを立ち上げました
・BUSHIZOは当初あった利用者とメーカー双方の課題を解決するECモデルを作り上げ着実にビジネスを成長させてきました
・後発ながら、顧客起点の徹底により、毎年150%利用者数が増えています
・高価で触らないと判断が難しい防具購入の体験価値を向上させるため渋谷と仙台にショールームもオープンしています
・そんな2名がこのYoutubeでチャンネルを作れる時代にあえて自社で動画サービスを開発しました。そこにはBUSHIZOの想いとビジョンがあります
立ち上げのきっかけは、現役剣士の自分たちが感じた防具選びの不便さ
30歳のころに剣道を8年ぶりに再開することになり、その際の防具を購入する体験が今のBUSHIZOのビジネス、コンセプトにつながっています。
BUSHIZOを立ち上げる1~2年前に大学生以来8年ぶりに剣道を再開することになり新しく防具買おうとしました。元々地元は北海道のため、東京ではどこで買えばいいかわからない。ネットショップで探してみようとしたけど情報がばらついていて決めきれず、結局知人の紹介で購入することになりました。買おうと思ったけど買い方がわからず、何を見て比べればいいかがわからず、自分ひとりでは買えませんでした。
6歳~22歳まで剣道をしていて、30歳から再開しましたが、きっかけは前職時代。社内の経験者同士で稽古をしようと盛り上がり、町の道場に通い始めて本格的にやろうとなりました。大学まで使っていた防具は高校時代に親に買ってもらっていたものだったので、防具を自分で買うという経験は初めてでした。
BUSHIZOがオープンする前にも防具を扱うウェブショップはいくつもありました。積極的にウェブ展開している通販サイトは5社ほどあり、他にも数十社、小売店やメーカーがウェブで販売をしていました。
ただ当時の環境は買い手側にとっては大変不便でした。それぞれのウェブサイトで陳列されている防具は種類が限定されていました。メーカーサイトは勿論メーカー推し。小売店もメインに推したいーカーが決まっていました。これはウェブでもリアルでも一緒でした。防具探しをするには複数の店舗をまたいで情報を探す必要がありました。
また、複数のサイトをまたいだとしても、メーカー都合の情報で各メーカーやサイトで表示の基準がバラバラのため、製品を単純に比較しづらいという問題点にもぶつかっていました。
防具選びは物理的に時間がかかり、買うものを納得感もって選びきれないというストレスがユーザー側にあると感じていました。
デジタルマーケティング屋の共通点を持つ2人の出会いが伝統業界のDX挑戦の始まり
BUSHIZOは上島、工藤の2人で創業していますが、2人の共通点は剣道家であり、デジタルマーケティング屋だったということです。
出会いは2016年の春。剣道を再開して通っていた渋谷の道場に社長の上島が後から入ってきたのが最初の出会いです。稽古終わりに飲みにいくなかで、最初はデジタルマーケティングという共通の仕事の話題が中心でした。デジタルマーケティングの中でも、上島はコンテンツマーケティング・SEO、工藤は広告と、共通しながら異なる部分もあったためそれぞれの情報交換をよくしていました。
ある時、将来の話になり、上島が起業したい意欲を強く持っていて、私も興味を持てることであれば起業したいという話になり、そこで今までやってきた剣道で何かできないかということで意気投合することになりました。そこから、何か面白いことできないか?ということで、まず何ができるか、何がしたいかのアイデア出しを始めました。これが出会ってから数か月後の2016年の夏前です。
海外ユーザー向けの剣道体験提供サービス等、色々なアイデアが出るなかで、剣道業界でお金が使われているのは防具だということになり、そこで自分たちが体験した防具購入時に感じた不便さをお互いのデジタルマーケティングの知識を活かして切り込んでいけば勝算があるのではないかと考え、まずECからスタートすることにしました。これが2016年の11月、12月ごろ。そして2017年1月に会社を設立しました。
「剣道具選びをもっと簡単に、便利に」というコンセプトで、ZOZOTOWNのように、そこにいけば色んなブランドを横断で探せて、検討できる剣道家のためのWEB通販サービスを作りたい、そんな想いがありました。
ちなみにBUSHIZOの社名の由来は、剣道という道がつくビジネスを志していて、もともと武士道(BUSHIDO)を世界に広めた新渡戸稲造のZOをもじりました。剣道をはじめとした道がつくものを、マーケティングを通じて世界に広げていきたい。これがBUSHIZOのミッションです。
メーカーに寄り添うコンセプトの提示で順調に進んだ仕入元との取引交渉
設立直後から、仕入れ元のメーカーさんとの交渉やECサイト制作を開始しました。
剣道の防具についてはプロでなかったため知識がなく、0から商品知識を勉強するところからスタートしました。知識がないと製品は売れません。コンセプト、素材、売り,等々の深い情報はカタログやネットではわからなかったため、テレアポをして直接メーカーに足を運び、各メーカーに商談と商品撮影として1社半日~1日お時間をいただきました。場合によっては夜には飲み会。4月からはじめて週に1社は日本全国のメーカーさんを回っていました。
実は、メーカーさんとのアポの獲得や取引のお話はスムーズに進みました。後々聞いてみると当初は本当に信用して良いのか疑いながら進めていただいていたようで、通販サイトが立ち上がるまではメーカーさんからは信用をされていなかったようです。通販サイトが立ち上がり、初動から積極的に広告を出したり、情報発信に力をいれて、メーカーの紹介記事をウェブでアップしたり、これまでのお店では使われていないSNSを使ったり、YouTubeチャンネルに広告出したりという、今までの防具屋さんが実施したことのない情報発信の質と頻度を見ていただき、そこで初めて本気だと理解していただけたようです。メーカーさんに注目する紹介記事のようなものも今までは存在しませんでした。
防具選びの不便さの背景には「誰が作ったのか」「どういう背景で作られているか」がわからないからではないか、という問題意識を感じていました。他業界ですが、ファクトリエさんの通販サイトを見たときに作り手の情報があったほうが決め手になりやすい、値段とスペック以外の作り手の想いやコンセプト、意図が伝わると防具選びがしやすくなると感じていました。スペックは素材や製法などのことですが、どのメーカーの防具も似通った素材を使っています。スペック比較、価格比較では、正直差別化できません。例えば、防具の箇所によって硬い、柔らかいが違うのですが、「なぜここを硬くしたのか?」「どのような意図があって柔らかくしたのか?」といった情報はありませんでした。つくるプロセスやこだわりを理解することが大切だと感じていました。
既存の防具屋の店舗では、店舗スペースの問題があり、かつ在庫リスクや保管コストの観点から取引メーカーが限定されていました。メーカー側も特定のエリアで卸すと、周辺の他の地域の店舗にはおく必要がないという考えがありました。
BUSHIZOでは、他の防具屋のように在庫を抱えて販売するのではなく、メーカーさんのご協力により受発注の方法をとっているため沢山の商品を取り扱うことができています。そのため、在庫リスクを抱えずに多くの製品を提供することができています。それはメーカーさん側に1つ1つの商品の個別発送していただく手間に協力してもらう必要がありますが、これはBUSHIZOのセレクトショップのコンセプトとして、メーカーさん全面に押し出す点やメーカーさんに寄り添う姿勢がこれまでの小売店のやり方と違うということでご評価いただき実現ができたと考えています。
これまでの防具の世界ではメーカーは黒子。剣道家とじかに接する小売店が主役でした。メーカーさんの顔が見えづらく、考えていることを伝える機会も少なく、情報が届きにくいことにメーカーさんは困っていることがわかりました。小売店がメーカーさんの情報を流通させられていないという問題意識に、メーカーさんと打合せを重ねる中で知ることができました。
初動は順調もすぐに踊り場に。地道な改善の繰り返しで着実にお客様の数を増やす
メーカーさんとの仕入れの話が順調に進むなかで、作り手の想いやストーリーを発信するメディアのようなECサイトを目指していきました。
2017年7月にECを開始し、2か月目の8月には200万円を超える売上をつくることができましたが、すぐに数字は落ち込み一定の数字で低迷が続きました。最初は物珍しさのボーナスが効いていたのだと思います。
まずBUSHIZOを知ってもらいたいのですが、最初は自信がなかったため何をメリットとしてお客様に伝えればいいか明確にできていませんでした。「剣道具選びをもっと簡単に、便に」というセレクトショップの構想を知ってもらい、定期的に買ってもらうようになるには時間がかかると思っていたので、まずは買ってもらえないと始まらないと思い、利益を削って製品を安く販売することにしました。
また、初動では積極的に広告出稿を行いました。後発で新しいプレイヤーが10年は出ていなかったので、物珍しさが効くうちにブーストかけたいと思っていました。そのためにはまず広告出さないと始まらないと考えていました。
最初は「防具」などとGoogleやYahoo!で検索する人に広告が出せるリスティング広告が効いていたと思います。認知度の高いYoutubeチャンネルに広告出稿し、こちらも抜群に効果がありました。
広告だけではなく、メーカーコンテンツ記事をSNSで発信することや、剣道好きな著名人インタビューも立ち上げ直後に始めました。これも前述のファクトリエさんをみてやろうと考えたものです。ネタをつくって情報発信を継続しブランド知ってもらうことが有効と考え、すぐには結果につながるものではないという覚悟で施策を継続しました。
立ち上げ後に買ってくれていたのは、まったく知り合いではない全国の剣士でした。最初から全国から購入が入りました。購入商品をみてみると親子分をセットで大人、小学生用で買っていく人たちが多く、30~40代くらいで自分もこどもも剣道やっている人が買っていると類推できました。
また開始直後は、ECの運営は2名ともはじめてで、お金もかけられたわけではないので、アクセス情報の解析、ユーザービリティ、コンテンツの見せ方を分析して、変更しながら改善を繰り返しました。実際、知り合いにも使ってもらってフィードバックをもらったりもしました。
それなりに認知されるようにはなりましたが、売上が月300万円くらいで低迷することになります。ECでは何が必要かを議論して、その自分たちなりの答えにたどり着いてから数字がついてくるようになりました。
悩んだ際にお客様が離脱しないようにウェブサイト上での接点を増やそうとして複数のツールの導入を行いました。結果的にこの施策はすぐに結果につながり売上でいうと感覚ですが1.2~1.5倍くらいにはなった気がします。ウェブ上でのチャット機能や、LINEでのコミュニケーションの導入、Facebookでのお客様の対応、これまでやってこなかった電話での対応などです。
ちなみにLINEの中での自動回答のチャットボットツールを導入しましたがこれは効果が体感できませんでした。そのため、1つ1つの対応は今でもアナログで行っています。
サイトの認知、サイトへの集客についても、費用対効果を合わせられる広告手法にも限界を感じていました。広告に頼っていたら成長が見込めないと判断し、SEO施策に改めて注力し始めました。地道なSEOの対策については、立ち上げから2年くらい、踊り場からは1年半くらいでようやく効果が実感できようになっています。
また、いつでも訪問したくなるサイトづくり、キャンペーンづくり、アクセスしたユーザーに今買うのがお得と思ってもらうサイト作りを心掛けています。常に安いサイトは今すぐ買いたいと思わせられないため、安い理由、お得な理由をしっかりつくり、常にキャンペーンを打てる状態をつくるようにしています。
通販の課題解決のためにリスクを背負ってショールームをOPENし大成功
2019年7月渋谷にショールームをオープンしました。そして今年仙台にも2店舗目をオープンしました。
もともと売上が一定規模に達した際にはショールームを立ち上げたいとは考えていました。
立ち上げたいと考えた動機は、通販だけでももっと行けるとも思っていましたが、実際にはじめてみると、剣道の防具は高額で質感や雰囲気を重視する人がとても多くて、想像以上に直接手にとってさわりたいニーズが多いことがわかりました。
通販のお客様から「どれくらい軽いのか?」「硬いってどれくらいか硬い?」「はめたときの感触、手首の感触、工藤さんの感触でいいので教えてください」「比較してどっちが使いやすい?」など手に取れないとわかりにくい、メールやチャットでの質問を受けていました。ウェブだけでは決めきれていない人が多く、アシストするにはリアルな場が必要だなと思いました。我々としては、出来る限りユーザービリティを整えてウェブ上でも探しやすく、自分で購入まで至ってもらうということを目標に運営していましたが、ユーザーからの「みたい」「さわりたい」というニーズが押し寄せてきていた。
ショールームは確かにコストがかかりますが、ダメだったら撤退すればいいという覚悟ではじめました。BUSHIZOのすべての施策のベースの考え方にはこれがあります。前提として渋谷のショールーム開設時には黒字だったため、極論、全体として赤字にならなければいい。純粋なショールームの黒字も目指しながら、全然だめだったらやめよう、という考え方でした。今ではショールーム単体の売上でコストはペイできています。
ショールームはオープン後1か月くらいでお客様に来てもらえるようになりました。LET’S KENDOというYouTubeチャンネルでの広告効果がよく、これを見てきてくれた人が多かったです。既存の通販サイトでのお客様の来店が多いと思っていましたが、蓋を開けてみると新規のお客様が7~8割を占めています。この事実はいい意味で期待を裏切ってくれていて、今もこの比率は変わりません。通販の補足が目的の来店がほとんどだと思っていましたが、ネットで防具を買わない層が多くいらっしゃっています。通販では買ったことがないがBUSHIZOを知っている人、BUSHIZOを知らないが防具を都内で探している人が来てくれています。この実績が自信になり、2020年の6月に仙台店をOPENしました。
YouTubeがあるなかで顧客起点でリスクを背負って自社独自の動画サービス開発を決断
動画については最初から考えていたわけではありませんでした。メインの通販はお客様にいかにリピートをしていただけるか、ファンを増やしていくかが大切だと思っていて、地道に伸びていましたが、時間がかかります。そのため、会社の成長を考えたときに、物販以外のサービス展開の必要性を感じていました。
そのような考えがあるなかで、剣道のメディアについて、特に技術向上のための情報取得についての問題意識がありました。
剣道のメディアはそもそも少なく、上達したい剣士の情報源はリアルな道場以外では、紙かウェブ。紙は昔からある雑誌で情報の質は濃いのですがテキストと写真のため技術の情報を取得するのは限界があります。そもそも若い人は雑誌を手に取ろうとする人が減ってきており、ネット上で探している人が傾向があります。ウェブ上だとYouTubeがあり、実際に試合の動画が多く上がっています。そこで、技のヒントや強い人のスタイルをみたりして学ぶ人が増えていました。しかし、試合の動画では、実際の稽古法や技術解説がないため不十分でした。一方、雑誌は稽古法や技術解説が中心。それぞれ偏っていました。
そこで、ニーズがあるだろう動画というフォーマットでニーズのあるお客様に届けたいと思い準備を始めました。当初はネットフリックス、Huluを意識した料金体系でサービス設計していましたが、通販サイトで認知があるため、通販と動画を連携してお客様にメリットを提示したいと考えAmazonプライムが思い浮かびました。そこからAmazonプライムを参考にしてBUSHIZOの会員システムをバージョンアップさせようという構想にいきつきました。
YouTubeチャンネルでコストを抑えた方法も考えましたが、広告収益に頼ったビジネスではなく、自社サービスとしてチャレンジしたいという思いがありました。
自社サービスであれば剣道家目線で本当に使いやすいサイト作りにこだわることができます。安定したサービスとして持続可能にしてユーザー還元するためには自社サイトでユーザーからの課金で安定した収益を確保すべきで、そうすれば品質が保たれ、未来につながると考えています。
動画サービス開発についても初めての取り組みで色々と苦労をしました、結果、想定より半年遅れた2020年の1月末にリリースしました。
リリース後は順調にユーザーが増えています。ここでもYouTubeチャンネルでの広告が効果につながっています。通販オープン時と異なり、既にBUSHIZOのフォロワーも蓄積できていたためそこでコストを抑えた告知ができたことも良かったです。
リリース直後からアプローチしやすかったアクティブな層から課金を集めることには成功しましたが、今後はそうではないターゲット層に対していかにリーチしていくかが重要です。BUSHIZO TVを知らない人や剣道の動画サイトの存在も知らない人がまだまだいると思っているので、少しでも認知を増やし、理解を促したいと考えクラウドファンディングに挑戦することにしました。
コロナ渦でもBUSHIZOは顧客起点で攻め続ける。ショールームを積極的に増やして全国の剣士の利便性を高めていきたい
今後は、まず物販ではショールームを増やしていきたいです。コロナ渦ですが、お客さんとの接点をリアルな場に置いていきたいですし、BUSHIZOがお客さんとかかわれる接点を増やしていきたいです。渋谷と仙台だけでリーチできるお客様は限られています、困っているお客様をフォローできる体制を増やしていきたいです。そして新しい体験、よりよい体験をしてもらうような努力をし続けていきたいです。商品を手に取って触れる価値は崩さないけれども、オンライン接客を導入して、空間に入ったときにリアルな場で接客しているのとかわらないスムーズな体験を提供したい。構想は色々と考えています。
BUSHIZO TVについては、基本的には今の方針で自作して編集するコンテンツ中心に考えています。一方、剣道の幅広い年齢層、初心者から高段者、までテーマがニーズに足りていないのでどんどん増やしていきます。また視聴者が楽しめるリアルタイムの番組提供、生配信もはじめていきたいと考えています。初期フェーズである現在はとにかく、これだ!というキラーコンテンツ作りに取り組んでいきます。なぜなら、サービス満足度向上に直結し、かつ信頼性を高めることで新規ユーザーの獲得に繋がると信じているからです。
BUSHIZOのクラウドファンディングはこちらから。掲載期間は2020年8月末までです。
https://camp-fire.jp/projects/view/268382